2011年3月8日火曜日

経済社会学について考えてみます

 私は,経済社会学という学問を探究しています。経済社会学とは何か?実はこのことを考えるための舞台としてブログを始めようとしています。
 言葉としては,「経済学」と「社会学」を合成したものに見えますが,この2つの学問はその基本的な考え方が異なります。少々乱暴ですが,ブログという初舞台ですから思いつくままに書いてみます。
「経済学」の考え方
 経済学はミクロ経済学とマクロ経済学,マルクス経済学の3つの理論体系としてまとまっています。ミクロ経済学,つまり新古典派経済学の立場では「方法論的個人主義」にもとづいて市場での人間関係を数理モデルを使って表現する技術が体系化されています。他方,マクロ経済学は国全体,さらに国際経済を集計可能なデータを使う理論体系の構築を目指しています。両者に共通するのは「量的・機能的な分析」であることです。
 これにたいしてマルクス経済学は資本制経済システムの仕組みを労働と資本が対立する「生産関係」の問題から明らかにします。マルクスは「経済的価値」を使用価値と交換価値とに峻別し,資本が所有する利潤,つまり「剰余価値」の源泉を人間労働そのものであることを明らかにしています。つまり,利潤が労働者からの「搾取」であることを論証した理論です。マルクス経済学は今では大学ではほとんど扱われていないのですが,雇用の不安定化と賃金水準の下方硬直性,さまざまな労働強化が深刻な労働問題を再び生み出している現在,今一度マルクス経済学の理論から現実をとらえなおすべき時代であると思います。労働市場において圧倒的に不利な立場にある被用者は,19世紀から20世紀初頭の労働運動の意味を考えるべきだと思います。
「社会学」の考え方
 さて,社会学の方は,対象となる領域ごとにさまざまな研究フィールドが設定されているので,理論体系としてすべての社会学者が承認する体系化された理論にはなっていません。しかし,社会学の理論を学ぶのであれば,ぜひ富永健一(1986)『社会学原理』岩波書店をお勧めします。近代科学として成立してきた社会学の主たる理論がすべて体系化され,そのなかで富永先生の人間観と社会観が貫かれた名著であると思います。
 もっとも私自身は,蔵内数太(1966)『社会学増補版』培風館をテキストに現象学的社会学を自らの理論的なベースとして位置づけています。残念ながら,蔵内数太のテキストは今ではなかなか手に入りません。古本で1962年版は入手でき,著作集で読むことができるくらいです。
 富永社会学と蔵内の現象学的社会学は,ずいぶんと異なっています。本質的な相違点だけを紹介しますと,富永社会学では,「ミクロ社会学」と「マクロ社会学」が設定されています。とくに前者では「方法論的個人主義」に立った「相互行為」の集積から社会関係が説明されます。社会の本質をめぐって,富永は「現象学的な主観説」と「機能主義的社会学による客観説」の対比を踏まえながら,「客観的に実在する社会的事実」を前に出して,人の心的内面としての意識の作用という意味で「現象学的な主観説」を取り込みながら「主体―客体の相似性」(つまりは同じものであると)を定式化(富永p.16参照)しています。一言でいえば,「社会関係は客観的に存在している」と認めないことにはこれを分析したり,さまざまな社会制度,社会政策を議論することもできない」ということになります。
 これにたいして,蔵内数太は,社会の本質をテオドール・リットの概念を用いながら「視界の相互性にもとづく体験事実」として定義します。現象学の基本的な認識方法を土台にするということは,すべてのことは「主観的」にしかとらえられていないということです。あなたと私の関係も,私の主観とあなたの主観がはたしてどこまで同じかは「体験事実」を通じて,それぞれが主観的に納得するしかないのです。私は,社会本質論としては,この蔵内社会学による理解が重要な意味を示していると思います。さまざまな制度や関係は,あたかも「客観的」に実在するように見えますが,お互いにそのように認め合っているだけであり,社会的地位や権力もそのように「相互主観的」に認め合っているだけのことです。この議論は,「社会関係力の貧困」が問題になり,精神的な病理現象が社会問題にまで深刻になっている経済社会において,社会とは私たち自身の「ものの見方・考え方」に左右される「現象」であり,誰かと心を通じ合える関係を育むには勇気をもって「体験事実」を積み重ねるしかないことを自覚させてくれると思います。
 
 さて,初回からずいぶんとややこしい議論をしてしまいました。
 私が理解している経済学と社会学はおよそ上記の議論を土台にしています。
 しかし,「経済社会学」という学問についてはまだ何も議論していませんので,次回あたり(はたしていつのことになるやら)書いてみたいと思います。

2 件のコメント:

  1. 長井 光利2012年5月2日 11:58

    素人にも解るように解説されていますが、もう少し具体的な身近な事例から解説して頂けないでしょうか。
     無学な者の我が侭ですが、よろしくお願い致します。

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    1. コメントを頂きありがとうございます。富永先生の議論と蔵内数太の議論のところは,この記述ではわかりにくく申し訳ありません。
       藤岡 秀英(2012)『社会政策のための経済社会学』高菅出版,とくに第8章を読んで頂けますことをお願いしたいと思います。この本の中で今日の経済社会問題への私の考え方を書きました。

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