2013年2月24日日曜日

2013年2月フィリピンでの調査

 2013年2月13日から23日の延11日間の調査旅行を実施しました。学生参加者は男子5名,女子4名,総勢10名のツアーです。
 今回のツアーの日程はJa-DHRRAのホームページで紹介しています。

 1986年フィリピンでは「エドサ革命」が起こりました。当時のマルコス独裁政権を倒して,アキノ政権ができます。このエドサ革命が後の1989年から始まる東欧革命にも影響をもたらしたとも言われています。
 たとえば,Civil Society(市民社会)という言葉が,昨今,市民の声を反映する社会運動の目標として位置づけられています。かつて,市民社会といえば,マルクスが使った言葉で,ブルジョア社会(Bürgerliche Gesellschaft)が,資本制経済社会を批判するニュアンスをもっていたのに,今ではCSO(市民社会組織)が「あるべき姿」として描かれています。NGO(非政府組織)の増大と,市民社会という言葉の使い方の変化も,フィリピンでの社会運動が影響を与えてきたと思われます。
 フィリピンでは,1987年の新憲法において「市民活動(NGO)を重要な担い手として認める」条文が盛り込まれました。この頃からNGOが雨後の竹の子のように設立され続け,公式に登録されているNGO,PO(市民組織)は5万団体を超えます。
 フィリピンのNGO活動は,国連の政策にも影響をもたらし,とくに東南アジアでのNGOのネットワーク構築にも大きな役割をはたしてきました。

 今回の調査目的は,(1)農村でのNGOによる農業開発事業の内容と,その成果を確かめること,(2)都市スラムの再開発事業に取り組むNGOの活動内容と,その成果の確認,(3)各地域のNGOと,これを束ねるNGO,そして,CSOの関係を調べること,とくに財政面での関係にも注意を払いました。

 (1) ミンドロ島の農村で環境保護,有機農業への啓発とその普及に成果を上げている Jon Carlos Bandoy Sarmientoさん(通称:ジャンジャンさん)のトレーニングセンターに3日間,滞在しました。
 ジャンジャンさんは,41歳。高校を卒業しただけですが,その後,実践のための知識,技能,技術を独学で学び,農業に関連する科学,薬草を使う伝統的医療技術から,法律,経済,コミュニティ・リーダーとしての実践知まで,実に多彩な勉強を重ねて,今日,ミンドロ島ビクトリー市の農民団体のリーダーとなっています。
 0.5ヘクタールの農地に,稲をはじめ果物まで多種多様な作物が植えられています。日本でも最近,始められている「循環型農法」として,さまざまな作物を混ぜて植え,防虫剤を使わずに害虫被害を防ぐ方法が実践されています。また,生活排水を浄化する「ため池」が作られ,そこに浄化作用のある水草が植られています。合鴨農法,豚や鶏の飼育とその糞を発酵させた有機肥料の製造などがあります。一見すると雑然とした農地が,実は,確かな秩序をもって計画的に作られているわけです。
 
 有機農法は高くつく,採算が合わない?
 3回生の西崎君のこの質問に,ジャンジャンさんは自ら有機肥料を作ることで化学肥料や農薬の購入費が節約され,付加価値のある作物がより安く生産できる「可能性,見通し」があること,環境保護の観点からも行政が支援すべき取り組みであることなどを説明してくれました。
 しかし,私自身の経験からは,農薬を使わない分,人的作業が膨大になりますので,「規模の経済」が成り立ちません。大変な労力をかけられる小規模農家でしか実践できません。その点では,「より安く」の生産は不可能です。
 観光農園,教育農園としての価値は高いので,その点を生かした,たとえば「農家民宿」を兼ねて行けば,小規模農家でも一定の所得につながる見通しはあります。

 多種多様なソーシャルビジネスの展開
 ビクトリー市では,ジャンジャンさんのイニシアティブによって,さまざまなビジネスが展開されています。①農家の協同組合,②行政,③民間事業者の3者が連携することで,農作物を加工,流通,販売して,付加価値の高い事業へと結びつけているのです。ハチミツ,ワイン,カラマンシー・ジュースなどが生産されています。それらすべてが有機栽培された作物ですが,そのために価格も高くなります。市販されている一般の商品よりも高い値段です。だから,流通販売においても,より多くの人の「理解」が不可欠とのことでした。
 「日本で購入してくれるなら,海外への出荷もします」と,ビクトリア市の市長も宣伝に熱心です。

 中国資本による環境破壊
 ビクトリア市には,ニッケル鉱床があります。今,中国資本が大地主から権益を購入して,鉱山の開発を進めようとしています。私たちの滞在中,ジャンジャンさんの携帯電話が何度も鳴り響きました。鉱山の場所で「土砂崩れで?,3名の命が奪われた」,鉱山開発に反対する周辺農民が「殺された」,たまたまの事故なのか,それとも見せしめに殺されたのか,部外者のわれわれには真偽のほどはわかりませんが,「開発を歌った」農地の収奪に反対する人が,今も殺されています。
  


この竹橋を渡らないと農園には入れません。
ジャンジャンさんによれば,これが暗殺されないためのセキュリティシステム。

ジャンジャンさん,PAKISAMA(農民NGO)のリーダーの1人

トレーニングセンターの前で記念撮影

(2)都市スラムの再開発事業
 私たちは,スラムの再開発事業に取り組む,UPA(Urban Poor Association)と共に,マニラ湾周辺にひしめくスラム3か所と,かつてのスモーキーマウンテンを体験訪問しました。
 UPAだけではなく,実にたくさんの各専門NGO団体が,都市スラムの改善事業に互に連携しながら取り組んでいます。
 マニラ市だけで70万人を超える人が貧困コミュニティに居住していますが,彼らは不法占拠者(スクワッター)です。
 NGOはスラムの人びとに「居住権利」を認め,水道,電気の引き込み,さまざまなソーシャルエンタープライズの提案と実践,貯蓄の啓発事業,そして,政府と連携した住宅建設によるスラムからの移住を最大の目標として取り組んでいます。
 しかし,政府機構のなかには,マニラ湾の経済活用を急ぐために,スラムの強制撤去を唱える人びともいます。私たちは,3つの貧困コミュニティを訪問する予定でした。1つ目のコミュニティを視察していた時,NGOの電話が鳴り「火災が起こっている」と言います。昨年も「放火」による焼き払いがあった,そんな話の矢先のことです。

悪臭を放つどぶ川の両脇にひしめくバラック

一軒当たりの広さはこの程度

ゴミ処理場(ダンプサイト)のスラムでは子供らがゴミをあさる。

廃材を焼いて「炭」を作るために,煙が蔓延。



3番目の訪問予定地が火災に,3名死亡,150世帯が焼け出された。

(3)NGO,CSOの組織構造と連携ネットワークについては,フィリピンのコードNGOをはじめ,PHILSA(フィルサ)などのコアNGOで訪問調査を行いました。
 その内容についてはここでは省略します。

 もし,ご興味のある方がいらっしゃいましたら,メールでご連絡ください。
 後日,論文として整理したものをお送りいたします。